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塑性加工・金型技術動向(中国・ポルトガル)

海外 塑性加工業界の変化

塑性加工業界の国際的な潮流として、企業間連携を超えて、企業-政府間連携が加速している。従来、鉄鋼や化学品などの素材業界(川上)、また自動車や電機などの最終製品業界(川下)は、産業規模が大きく優先的に国際競争力の強化に向けて、各国政府が産業保護を行い、企業側も政府と密な連携が図られてきたが、一方、産業規模の小さな塑性加工業界が大きく取り上げられることはなかった。

しかし製造業の「川中」にあたる塑性加工が、製品特性である「梃子の原理」によって、製品サイクルの早い環境下で、川上や川下業界の競争力に益々大きな影響を与え、付加価値(利益)を生み出し得る産業であると各国政府が確信し、急速に産業強化を図る動きが広がっている。

本稿では、中国および欧州の動きを概観することで、日本の塑性加工業界においても、国際競争力を強化するために政府機関との連携強化が待ったなしであり、業界の最重要テーマの1つであることを提起したい。

各国政府による塑性加工業界支援

■中国
国際金型協会(ISTMA)が発行する最新データによると、生産額1位の中国は、年率9%成長を続けた結果、世界シェアが37%まで高まっている。この結果、巨大な国内消費分を賄うだけでなく、大規模な輸出を通して、世界全体への金型供給を担う構図が固まっている。

一方、中国政府(国務院)が主導する「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」として、中華人民共和国建国100周年を迎える2049年までに「世界の製造大国」の地位を築くことを目標に掲げる取り組みが加速している。イノベーションのコアとなる技術研究を強化し、研究成果の産業化促進を戦略に掲げ、2025年までに40カ所の「製造業イノベーションセンター」を設立し、3Dプリンティングやバイオ医薬分野の基盤技術開発、人材育成に注力しているが、塑性加工分野も対象分野の1つに取り上げられている。
その具体例として広東省 東莞市の横沥镇(Hengli Town)エリアに大規模な国家予算が投入され、民間企業の工場・住宅・教育施設・展示会場等を有する「金型イノベーションセンター」が建設され、国策としての産業集積が図られている。

特に上海交通大学など7大学の協力の元、金型技術学校が整備され毎年2,000名の高度技術者を輩出するなど人材確保まで手当されている。同エリアの金型産業は、2015年の生産高103億元(約1,700億円)、所在企業数700社超(うち生産額15億円以上が20社)に及び、更に2018年の生産高は200億元(約3,200億円)に到達するとしている。2018年の中国全土の金型生産高は約3兆円であり、同エリアのみで約7%を占める「金型の街」が国策で生み出されたことになる。

中国では、1980年代に中国金型工業会、中国金属成形工業会などの各業界団体が国家主導の元で設立され、塑性加工産業の発展を後押しする政策として、工作機械等の設備投資や海外展示会への出展費などのコストに対して公的補助金が準備され、世界一の生産高に発展した塑性加工業界を下支えしてきた。その上で、中国政府が、金型・塑性加工を重点産業と認定し、百億円単位の過去にない大規模な投資を注入して、国際競争力の引き上げを図っていることは大きな転換点として認識する必要がある。

■EU
欧州では、EU加盟各国から拠出された財源を元にした「EU基金」を元に、一人当たりGDPがEU平均の75%未満の低開発地域向けに、産業振興や財政健全化に向けて助成金が供給されている(以下図表参照)。国別では、ポーランド、ルーマニア等が年間50億ユーロを超える金額を受益しており、ドイツ、フランス、イギリス等の拠出金を使用している。

(出展元『EU予算を読み解く』平成30年5月 欧州連合日本政府代表部大使 兒玉和夫様)

本助成金は、受益国で、税額および雇用人数の拡大が見込まれる製品・サービス分野を見極め重点的に投入されているが、塑性加工産業を強化する各国では、本補助金の投入が進められている。

筆者が、2018年10月にポルトガル北部で開催された欧州金型シンポジウムに参加した際に、EU基金が、ポルトガル金型産業に対して、『生産高、雇用人数の増加率を毎年維持し続けること、銀行口座に投資の元手があることを条件に、金型製作・金属加工に必要な工作機械投資額の最大60%まで負担する援助プログラムを提供している』と教えられた。 
その資金を活用することで、設備投資という大きな課題をクリアし、ポルトガル金型業界は、リーマンショック以降の過去10年間で、生産高および輸出高を2倍に拡大する世界的にも飛び抜けた高成長を示している。

その背景として、ポルトガル現政府が政権を維持するために失業率を16%から8%へ半減する【2020~2030プログラム】という大規模な補助制度を、EU基金を元手に推進している。そのプログラムを狙って、ポルトガル金型工業会が、政府 経済省を巻き込みながら、EU基金事務局を招待して、ポルトガルの製造業に大きな影響を与える金型製造業界の価値を訴え、援助プログラムを勝ち取ったと言う。

またEU基金は、補助金支援を通してEU圏内の国・地域単位で産業集積をはかり競争力をコントロールしている。その一例として、ポルトガルのモールド金型産業は、EU圏内での重点強化産業と認定されていると考えられる(※ポルトガル金型産業は、総生産高の80%以上が樹脂・ダイカスト等のモールド金型が占めている)

 

日本の塑性加工メーカーの海外展開の方向性

上記の通り、政府機関まで巻き込み一体となった塑性加工産業の競争力強化が進む中国、欧州の塑性加工メーカーが、日本市場にも攻め込みシェアを拡大する現状がある。その中で、日本の塑性加工メーカーが、日本国内の事業を維持した上で、海外市場で長期継続的に販路を確保し展開し続けるためには、経営資源の観点から、自社単独活動を志向するのではなく、他社との提携・業務連携により、外部リソースの最大活用を追求すべき環境にある。

特に、同業の塑性加工メーカー同士、あるいは国内顧客ひもづきの展開だけでなく、工作機械メーカー・材料メーカー・工具メーカー・商社・ソフトウェア企業など「塑性加工のサポートインダストリー」である各種企業との緩やかな連携活動が、自社の独立性を維持した上で、海外情報収集~顧客開拓~製造~アフターサポートを支えるインフラを確保する有効な取り組みである。

当社では、塑性加工業界のパートナー候補企業同士での情報交換の場、提携・合弁等による連合体としての海外展開を推進しているが、自動車産業の変化などの大きな環境変化を受けて、2015年以降、急速に連携事例が増えているのを実感している。

まとめ

現在の国内外の環境を踏まえ、日本の塑性加工メーカーが海外展開を考える上で、以下2点が重要になると考える。
① 塑性加工のサポートインダストリー企業との連携によるインフラ活用
② 日本の政府機関を巻き込んだ企業‐政府一体での産業競争力強化

特に②については、各塑性加工 業界団体および有志メンバーが主体となって、海外各国の「政府による国策としての塑性加工業界支援の実態」を調査分析し、政府機関へレポートし、危機感を共有した上で、政府による支援対策を共同で作り上げるといった旗を掲げる覚悟が問われている。

 

執筆者プロフィール

茄子川 仁

茄子川 仁 - ナスカワ ジン -

総合商社、経営コンサルティング会社勤務を経て、当社設立。日本の国際競争力強化を目指し、「商社xコンサルティング」のハイブリッドサービスを信条に、金型・金属プレス等の素形材産業を中心に、製造業からサービス業まで幅広く担当。またメキシコ・レンタル工場立ち上げ、世界企業データベース構築など事業投資も積極的に行っている。日本金型工業会 国際委員など政府・業界の委員活動、国内外企業の社外取締役など多数。

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